第8回 いつも自然体"クミコ"からの応援レター「ココロの窓を開けたなら」

新連載いつも自然体

第8回 「ツケマツゲ」 (2010.10.15)

商売柄「ツケマツゲ」をします。
これ、一昔前、いえ、私の若い頃には「特殊」な人の道具でした。
いわゆる水商売か、芸能人。
一般の人が手に取るものではなかったのです。

エピソードがあります。
浅川マキさんという、いまや伝説に近い歌手。
彼女がジャズのライブハウスにお客として座っていた時のこと。
目ざとく彼女を見つけたミュージシャンが、一曲唄ってよといいました。
そこで、マキさんの答えがなんとも面白い。
「今日はツケマツゲしてないので唄えないわ」

ウィットに富んだ断りかたがステキですが、事実も含んでいます。
ツケマツゲは、舞台のコッチとアッチを分けるもの、そういうことでしょう。
ツケマツゲと無縁だった頃の私には、今ひとつピンと来なかったこの話、今はなるほどと思います。
ステージに立つ前、ツケマツゲをすると、急に覚悟が決まります。
これから 「クミコ」という歌手になるのだと自覚します。

思えばずいぶんと最近のことです。
世の中を見渡せば、ツケマツゲだらけになってからのことです。
見とれてしまうほど見事な分厚いツケマツゲを、電車でも飯屋でも見かけるようになってからです。
舞台に立つ人間がしていないのに、これじゃまったく逆だ。
慌てました。慌ててドラッグストアに走りました。

ですから未だに下手です。圧倒的経験不足です。
時々、半分くらいぶら下がっています。糊の具合が把握できないのです。
そんな時、若いスタッフが急に年上のような面持ちでいいます。
「私がやりましょう」 まったく彼女たちのツケマツゲときたら、完璧です。
でも、時々、みんな同じ顔に見えます。
「ねえ、どうしていつもツケマツゲしてるの?」
「ともだち、みんなしてますから}

そんな若いスタッフが、ある時旅先で寝坊をしました。
時間がないのでスッピンで現れた、その顔の可愛いこと。
はじめて、彼女のホントの顔、ホントの中身が見えた気がしました。
その美しさを讃える私に、照れてちっちゃくなっていた彼女は、それから ツケマツゲをする回数が減りました。

ツケマツゲに限らず、若い時ほど、女性は化粧をしたがります。
私だって20代の頃、女友達の部屋に泊めてもらい、翌朝二人ですることと いえばまず「化粧」でした。
パッパッと日焼け止め塗って終わり、なんていう現在からは想像できません。

ああ、楽になったなあ。そう思います。
年を重ねても、キレイにお化粧をする心持ちは確かに必要でしょう。
でも、それはいつでも頑張るものでなくて、素顔だったり気張って化粧したり、 その中間だったり、自由自在。 だって全部自分の顔ですもの。ひっくり返してもこれだけですもの。

顔は一つの道具。そう思えばいいのです。
それぞれの人生が現れた、唯一無比の道具、うまく使ってやりましょう。
それこそ若い人にはできぬ技です。

クミコさんPROFILE

1954年9月26日 茨城県水戸市生まれ。早稲田大学卒後、’78年、「世界歌謡祭」に日本代表の一人として参加。’82年 シャンソンの老舗・銀座「銀巴里」のオーディションに合格し、プロとしての活動をスタートする。’99年 作詞家・松本隆氏に見いだされる。‘02年 アルバム「愛の讃歌」に収録した「わが麗しき恋物語」が、“聴くものすべてが涙する歌”として大きな反響を呼び、シャンソンでは異例の大ヒットとなり一躍脚光を浴びる。’07年 デビュー25周年を迎え、中島みゆき書き下ろしの新曲「十年」を収録したアルバムをリリース。翌年、アルバム「友よ!」を発表し、話題に。‘09年、三木たかし氏の遺作である「届かなかったラヴレター」をリリース。そして、今年2月9、10日には、井上芳雄さん徳光和夫さん上柳昌彦さんと共に、シリーズ35万部突破の実話集「届かなかったラヴレター」を朗読と名曲で綴るハートフルコンサートを実施。また、「届かなかったラヴレター」を含む新作ミニアルバムをリリース。2月24日にはNEWシングル「INORI 〜祈り〜」をリリースし、USEN総合リクエストチャート1位になるなど快進中。

*その他クミコさんの詳しい情報は 「クミコ オフィシャルサイト」まで http://www.puerta-ds.com/kumiko/index.html

連載